2006年03月22日

ウィズネイルと僕/Withnail and I




[原題]
Withnail and I

[監督・脚本]
ブルース・ロビンソン

[出演]
主演;リチャード・E・グラント
   ポール・マッガン
助演;リチャード・グリフィス、ラルフ・ブラウン、マイケル・エルフィック、ダラ・オマリー

[あらすじ]
カウンターカルチャー全盛の60年代も終わり頃。俳優学校を卒業したウィズネイル(Withnail)とマーウッド(Marwood=僕)は、ゴミの溢れた古いアパートで二人暮らしをしている。俳優の仕事も見つからないまま、ドラッグとアルコールに塗れた生活を送っている。
ロンドンの暮らしにうんざりした二人は、ウィズネイルのおじさんモンティの所有する田舎のコテージへ脱出することに。ところが、コテージの生活は雨続きで、彼らには食料もない。しかも、モンティおじさんはホモで、ことあるごとに「僕」へ迫ってくるし……。




[感想]
粗筋を見れば分かるように、特にストーリーがあるわけではない。二人の悲惨な「田園生活」、汚いけど独創的な台詞、ウィズネイルの奇矯な行動と、それに巻き込まれる「僕」といった描写の連なりを楽しむ感じ。
(田園生活というのは、イギリスでは確たるイメージを伴う休暇の形だと思う。それを、どう考えても真っ当な生活からドロップアウトした二人がなぞろうとして、失敗していくのもおかしいわけだ)
日本ではビデオ・DVD化はされていないけれども(公開されたことはあったらしい)、イギリスでは80年代のカルト・クラシックとして熱狂的に指示されている。
有名な台詞が沢山あって、いまだに好んで引用されるらしい。例えば”I demand to have some booze!”なんかは、イギリスのパブなんかで使えば絶対通じると思う。
有名なdrinking gameもある。何でも、映画を上映しながら「僕」とウィズネイルが呑むスピードに合わせてグラスを空けて行くっていうものらしい。こーれーはー大変だと思うよ〜(笑)。だって、のべつまくなしに奴らは呑んでいるし。

役者はみんな素晴らしい。
リチャード・E・グラントが演じているのが、エキセントリックなウィズネイル。奇矯で、臆病で、いつも厄介ごとに巻き込まれる度に「僕」に全てを押し付けて逃亡する。矜持と不安と寂しさが入り混じった態度が良く出ている。
「僕」はポール・マッガン。ウィズネイルのトバッチリを受けないように警戒しているのに、いつも逆効果な気の毒な人。迷惑を掛けられて憤慨したり、怯えたりしている演技は、ウィズネイルの激しい演技と比べると目立たないけど、すごく可愛い。
モンティおじさんはリチャード・グリフィス。この人が、ハリポタのバーノンおじさんだと思うと、すごくおかしい。太ったホモの上流イギリス人の、気持ち悪いけどどこか気の毒、みたいな空気が良く出ている。

この映画の舞台は1969年。ビートルズが解散して、ジミヘンが死んじゃって、60年代は明らかに終わろうとしている頃だ。1年すると、今度はカーペンターズがデビューするような時期と言えば伝わるだろうか。それなのに、彼らは方向転換することも出来ずにいる。
60年代のカウンターカルチャーにどっぷり漬かった生活から、僕もウィズネイルも抜け出したいと思ってる。俺はこんなものじゃ終わらないと思ってる。そんなどん底の中で物語は始まるわけだ。
「どん底」というのは傍から見る分には悪いばかりのものではなくて、どこかオカシミを含んでいるようだ。この映画が現在まで支持されているのは、この出口なしの「どん底」感というものが、後になって振り返ってみると愛しいものだったからではないかな。
映画の最後で取り残されたウィズネイルは、雨の動物園で狼に向かってハムレットの台詞を朗々と唱える。本当に素晴らしいシーンで、ここに至って「どん底」感も頂点に達する。狼だけが、雨に打たれながら、彼の演技を観ている。
そうか、滑稽さと哀しさは双子みたいなものなんだなあ。そんな風に思わされる、美しい映画だった。


[入手方法]
残念ながら、この映画は日本ではビデオ・DVD化はされていない。(劇場公開されたことはあったらしい)だから、UKか米国のAmazonで注文するのが早道だろう。
ただし、少なくともUK版には字幕が付いていなかったので、要注意。むしろお勧めはUS版。アメリカで発売されているクライテリオン・コレクションは英語字幕付き・リージョンフリーなのだ。
米国アマゾン他、アメリカ系ショップでクライテリオン版が買えますので、是非是非ご確認を。
クライテリオン・コレクションのHPはこちら
また、インターネットでは脚本原文を載せているサイトページも簡単に見つかるし、脚本の日本語訳を載せて下さっている素晴らしいサイトさんまである。ここです。
作中で喋られている英語は非常に聞き取りやすいものだし、特にウィズネイルやモンティおじさんは上流階級のきれいな英語を喋っている。お話の流れ自体も分かりやすいし、スクリプトの助けがあれば何とかなるのではないだろうか。
日本では殆ど知られていない映画だけれども、イギリスでは「二十世紀の映画ベスト30」にもランクインしている名作で、カルトなファンが多いことでも知られている。観る為のハードルが少々高いのが難点だが、外国Amazonを利用されている方、リーフリデッキを持っている方は、是非是非どうぞ。


[映画の生まれた経緯]
 映画の元となった小説が生まれた経緯について、監督・脚本のブルース・ロビンソンは次のように語っている。

************************

「私がドラマ・スクールに入ったのは1964年のことで、それは単純に不愉快な経験だった。第二学年を迎える頃には、自分が俳優になりたくないってことは知っていたが、ドラマ・スクールにいる人々の為に、自分もそこにいたかった。友達のMickey・Viv・Davidと私は、カムデンタウンでの暮らしに行き着いた。持っている金はきわめてひどく少なかったが、たっぷりとした充溢と、若さと、もちろんのこと決して実現しなかったが、俺たち全員が映画スターになるんだという期待を持っていた。
 環境はどんどん悪くなっていった。それは60年代という時代の動きに並行していたようなものだろうが、こういう人間関係の全部が変化していった。人々は結婚したり、仕事を得たりして、この家には私ともう一人の奴、Vivianが住んでいるだけになった。
 私はセカンダリー・モダン・スクールに行った。教育は受けてなかったんだ。Vivは非常に教養のある奴で、彼はある意味で私のチューターになったんだと思うね。私は彼にGerard Manley HopkinsやKeatsやBaudelaireや、そういう連中のことについて習った。
 それから、彼が出て行った。私は金も食べ物もなく、ガス・オーブンと白熱電球と床のマットレスと一緒に取り残された。それは1969年の冬だった。私は惨めで、完全に絶望していた。私は俳優で、仕事を取ることが出来なかった。
 それである雪の日、私はフラットに帰ってきて泣き出し、床板に向かって叫びだした。公平の神、あるいはどんなくそったれの神でも良い、分かるだろ、そいつらに助けてくれと懇願したんだ。それから、自分の陥った窮地に、私は笑いだした。この物語について考えついた時、私はヒステリックに笑っていたんだ。
 私は、詩を書こうと挑戦するのに使っていたこの古いOlivettiのタイプライターを持っていた。私は座って、この自分の窮地に関する物語、自分と、今はもう行ってしまった友達についての物語を書き始めた」
(出典・「Premiere」1996年2月号)
posted by heathertop at 13:50| Comment(5) | TrackBack(0) | Review | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
heathertopさん、こんばんは。

私が先日入手したDVDはまさにその「字幕がない」(どころかメニュー自体がないに等しい)UK盤です。REGの台詞はともかく、Paulの話している事は殆ど聞き取れてません(爆)。やっぱり苦手なイギリス英語…とにかく一度観なくては、と思って、丁度ロンドンへ行った友達に頼んで買って来て貰ったんです。また後日CRITERION版を購入予定。

話の背景を知らなかったら、60年代終わりの飲んだくれ2人のお話…これを観るとREGが下戸とは思えないです(笑)。それにしても、Bruce様は若い頃ゲイの方々に狙われまくってたんですね、その気がないのに迫られて…(同情)。
Posted by still crazy for STILL CRAZY at 2006年03月22日 21:08
こんにちわ〜!
あぁ、UK版でしたか。実は私も最初にそちらを買いました(笑)。それからCriterion版のことを知って買いなおしです…。
聞き取り、難しいですよね。ポールさんもミドルクラス、あるいはローワーミドルクラスの発音だと思うんですが、何故か難しいです。ご本人はScouse(リバプール訛り。最早、別の言語みたい)なのですが、この映画では訛りを抜かないと配役から降ろすと脅されたらしく、発音は随分とましになってるんですけどねえ。

REGさんのフィルム・ダイアリーによれば、監督は「俺はルネッサンスのファッキン・プリンスみたいにゴージャスだったから、色んな男たちにケツを狙われたんだ」と、恥じらいもなく自分で言っていた、となってましたよ(笑)。
これを読むたびに、トラウマは一体どこへ…??と思うんでした。
Posted by heathertop at 2006年03月25日 13:03
heathertopさん、こんばんは。

「…しないと役を降ろす」はBruce様の口癖でしょうか(苦笑)?

きっと、そうやって茶化す位でないとやっていられない程頻繁にあったんでしょうね…21歳位であの色気ではみんな吸い寄せられそう。現時点で私の手元にあるBruce様映像は「ロミオとジュリエット」と「スティル・クレイジー」しかないので、一気に30年飛んでしまいます。「Benvolioは何処?」と探したのは私だけ?消去法+横顔で分かりました(爆)。
Posted by still crazy for STILL CRAZY at 2006年03月27日 00:33
「役を降ろされる」ことに風変わりな態度を取ってるのは確かですよね。
「スティル・クレイジー」ではちゃんと演技できた理由を訊かれて、「気に入らない時は役から降ろしちゃって良いからね」と監督と取り決めしていたからと答えてました。
ベンボリオ役は本当に美しいですよね……。今とは全然顔が違っていてビックリです。時期によって顔立ちがころころ変わる方ですけど、私は「スティル・クレイジー」の頃と「ジェニファー8」撮影時が好きでーす。
Posted by heathertop at 2006年03月31日 14:54
押し後残します
Posted by 人妻 at 2008年01月26日 17:56
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